コラム

ついに姿をあらわした次世代のWi-Fi規格「Wi-Fi 7」のインパクト

無線ネットワーク環境は、いまやビジネスや生活のあらゆるシーンで欠かせないものとなっています。そんな無線ネットワーク環境をオフィスや家庭などの限られた範囲内で、手軽に実現する手段としてWi-Fi(ワイファイ)は広く普及してきました。そしてWi-Fiはさらなる通信速度や安定性の向上に向けて高まるユーザーニーズに応えながら、絶え間ない進化を続けています。その最新規格であるWi-Fi 7について解説します。

 

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Wi-Fi 7の概要

Wi-Fi 7は、IEEE(米国電気電子学会)において「IEEE802.11be」として策定された次世代の無線LAN規格です。2023年12月末、総務省が電波法施行規則を改正して認可したことから、日本でも利用可能となりました。

そしてIEEE802.11beは、Wi-Fi Alliance から7番目(第7世代)の規格として認められたことから、一般的にWi-Fi 7と呼ばれています。

Wi-Fi 7の最大の特徴は、前世代のWi-Fi 6Eからのさらなる通信速度の向上です。

使用する周波数帯はWi-Fi 6Eと同じ2.4GHz、5GHz、6GHz帯ですが、このうち6GHz帯については、最大帯域幅が従来の160MHzから320MHzまでで拡大されています。これにより理論値としては最大約3.7倍の高速通信が可能です。

なお、無線ネットワーク規格はこれまでどのような進化を遂げてきたのか、その変遷を示したのが【表1】です。Wi-Fi Allianceでは、Wi-Fiの認証プログラムごとに世代番号を付与するナンバリング規格を2019年より開始していますが、Wi-Fi 1~3については現時点で未定義となっています。

表1:無線ネットワーク規格の変遷

Wi-Fi 7の技術的な進化ポイント

Wi-Fi 7は、具体的にどうやって通信容量(速度)の向上を実現したのでしょうか。技術面の主要なポイントを紹介します。

<チャネルボンディングの向上>

無線ネットワークで通信速度を向上するためには、使用する電波の周波数帯域幅を増やす必要があります。道路を例にとれば、車線を増やすことでより多くの車が同時に通行できるようになるのと同じです。Wi-Fiでこの車線に該当するのがチャネルという仕組みで、1本のチャネルには20MHzの帯域幅が割り当てられています。

さらにWi-Fiでは、隣り合う複数のチャネルを1つに束ねてデータを伝送する技術が実装されています。これが「チャネルボンディング」と呼ばれるものです。

Wi-Fi 6Eでは一度に利用できる周波数帯域帯が、最大で160MHz幅(8チャネル分)までに限られていました。これに対してWi-Fi 7では、2.4GHz、5GHz、6GHzの3つある周波数帯のうち、6GHz帯については16チャネル分のチャネルボンディングが可能となり、帯域幅が320MHz(16チャネル分)に拡張されました。これによって最大通信速度を従来の9.6Gbpsから36Gbpsへと大幅に向上しています。

表2:チャネルボンディング

<QAM(Quadrature Amplitude Modulation)の拡張>

Wi-Fi 7では最大通信速度を向上するために、電波の使用効率も高めています。

Wi-Fiではデジタルデータ(パケット)を電波に乗せることが可能なアナログ信号に変換するための技術として、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)と呼ばれる変調方式を採用しています。

Wi-Fi 7では、最新のQAMが実装されています。具体的にはWi-Fi 6Eまでの1024QAMと呼ばれる方式から4K-QAM(4096-QAM)と呼ばれる方式に変更することで、1つの信号に乗せられるデータ量が10bitから12bitに増加しました。単純計算で1.2倍のデータが詰め込めるようになるため、通信速度の向上に寄与します。

なお、この効果は特に近距離通信時に大きく発揮されると言われています。

<MLO(Multi-Link Operation)>

Wi-Fi 6Eの登場以降、Wi-Fiでは2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の3つの周波数帯を利用できるようになりました。ただし、ユーザーが利用できる周波数帯は任意の1つに限られていました。結果、別の周波数帯ではかなり余裕があるにもかかわらず、特定の周波数帯に利用が集中して速度が制限されたり、デバイス間での干渉が発生して通信が不安定になったりする場合がありました。

この問題を解消したのがWi-Fi 7に実装されたMLOと呼ばれる技術で、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯のうち複数の周波数帯の同時利用を可能としました。これにより通信速度が向上するほか、干渉波の影響を低減します。

表3:Wi-Fi 7(MLO)

<Multi-RU(Multi-Resource Unit)>

無線ネットワーク環境では接続するデバイスの台数も急速に増大しており、これも通信速度を低下させる原因となっています。厳密には特定のデバイスに周波数帯域を占有されてしまい、他のデバイスは必要な通信速度を得られないという問題が起こります。

そこでWi-Fiでは、複数台のデバイスが同時利用する環境でも通信速度の低下を防ぐために、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)や「MU-MIMO(Multi-User MIMO)」といった技術を活用してきました。

Wi-Fi 7で実装されたMulti-RU(Multi-Resource Unit)は、これらの技術をさらに進化させたもので、特定のデバイスに占有されていた周波数帯域をRU(Resource Unit)という単位に分割して各デバイスに割り当てます。これにより、複数のデバイスが同居する無線ネットワーク環境でも効率的な通信を行うことが可能となります。

表4:Multi-RU

まとめ

前述したとおり2023年12月末に総務省が電波法施行規則を改正し、IEEE 802.11beの利用を認可したことで、日本でもWi-Fi 7の利用が可能となりました。

ただし、Wi-Fi 7に対応した無線ルーターさえ導入すれば、すぐに利用できるわけではありません。Wi-Fi 7を利用するためには、無線ルーターだけでなくデバイス側もWi-Fi 7に対応している必要があります。

日本でも6GHz帯に対応したスマートフォンがいくつか出回り始めていますが、それらも現状ではWi-Fi 6E扱い(2024年7月現在)であり、Wi-Fi 7を利用できるのはファームウェアアップデートでの対応を期待するか、Wi-Fi 7に対応した新モデルが出揃うのを待つしかありません。

したがってWi-Fi 7の本格的な普及にはまだしばらく時間がかかるかもしれませんが、より高速で安定した無線ネットワークに対する要求には限りがなく、さまざまなビジネスや生活の新たな選択肢となるのは間違いありません。

 

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